青森の旅館
昔から付き合いのある演劇集団なんですが、この人達は日本全国の小劇場を周って公演をしているんです。 それでそれは青森へ行った時なんですが、その時泊まった宿というのが、町の外れにある古い旅館だったんです。 さて公演を終えて宿に戻ってきた。どこかへ遊びに行こうかと思うんですが町外れですから、近くにお店があまりないんですよ。 あっても早く閉まっちゃうんだ。 それで、旅館の中で空いてる部屋でも見つけて、そこでみんなで飲もうって話しになったんだ。 そしたらその話しをしていた一人が、 「ああ、空いてる部屋ならあったよ。この旅館の一番奥のほうにある部屋なんだけど。あそこなら騒いでも大丈夫だと思う。」 って言うんです。 早速、その部屋にテーブルを持ってみんなで行ったわけだ。 行ってみると部屋は六畳位の狭い部屋で、その部屋には小さな窓が一つ、そして襖一枚分位の押入れがあるわけだ。 天井にはコードがさがって、電球に傘があるような小さな電気がある、古い部屋なんだ。 でも空いてる部屋だし、騒いだって問題なさそうですからね。 テーブルの部屋にお酒を置いて、つまみを置いて、みんなで一杯やりはじめた。 そうやってみんなで話しをしている時に、(あれ?)と思った。人の声なんですよ。隣の部屋から人の声がするんだ。 よく聞いてみると、男の人の声と、女の人の声と、そして子供の声。 「ああ…隣の部屋に人居たんだな…?隣は家族連れのようだ」一人が言った。 あっちの声が聞こえるって事は、こっちの部屋の声も聞こえているはずですからね? 迷惑をかけたら悪いって事で、少し声のトーンを落として、なおもみんなで飲んでいたわけだ。 と、隣の部屋の声が次第に聞こえなくなっていった。 でも、しばらくしてから、また隣の部屋から話し声が聞こえてきた。 男の人の声と、女の人の声と、そして子供の声。 「おい…こんな時間なのに、まだ子供起きてるな?」 そうするうちに、また声が消えていった。 とね、トイレから戻ってきた一人が、「おい…隣に部屋はないぞ?」って言った。 それを聞いた仲間が「何言ってるんだよ…声聞こえてるじゃねえか…壁は?」って聞いた。 というのも、この部屋を出ると通路があって廊下があって、白い壁があるわけだ。 廊下から入口は見えないけど、どっかに入口があるんだろうって、みんな思ってたわけだ。 と、トイレから帰ってきた彼が、 「いや違うんだよ。あの壁のところをずっと行くと、横に入る廊下があって、突き当りは廊下なんだよ。 それで俺、トイレ行って用足しながら窓を開けたら、あの壁だけなんだよ。で、その先にこの部屋が見えてるんだよ。隣の部屋なんてないんだよ。」 って言った。 「じゃあ、あの話し声はどっから聞こえてるんだ?なんなんだよ…」 みんなが聞いているわけだ。男の人の声と、女の人の声と、そして子供の声。家族の声が。 「聞こえたよな?聞いたよな?家族の声」 「うん…聞いた」 「あの声どっから聞いた?」 「あっち…」 でも、そこにあるのは押入れだけなんですよ。隣に部屋はないんだから。 「おいよせよ…」 おかしいですからね。押入れに家族がいるなんて考えられないんですから。 それで、みんな黙っちゃった。 と、その中の一人が立ち上がって押入れに近づいていった。 そして、襖についている取手に手をかけた。そして襖を開けた。 その途端に、みんながざわついた。 押入れの中、その中は天井も床も全部、古い新聞が貼ってあるんです。 で、上の段には御札が、そして下の段には皿に盛られた塩が置いてあるんだ。 すると一人が、「おい…まさかこの部屋、人が死んでいるんじゃないか?」と言った。 と、そこに居るみんなの影が急に揺れた。 上を見ると、傘のついた電球が、すごい勢いで揺れているんです。 もうみんなは驚いて、急いでその部屋を飛び出していった。 翌日になって、みんなは小劇場に行って、その話しをそこの支配人にしたんです。 すると支配人が、 「ああ、あそこの旅館ね。あそこでさ、昔芸人の一家が心中してるんだよね。」 って言ったそうなんですよ。





