ユセフさんのラジカセ
サモ・アリナンズという人気の劇団がありましてね、私も時々お邪魔するんです。 それで、ちょうど打ち上げの宴会があるっていうんで、それに呼んでもらったんです。 そうしましたらね、その劇団でただ一人の外人さんなんですが、 イラン人でユセフさんという青年が、私のところへ来ましてね、 「稲川さん、僕は怖い経験をしているよ」って言うんです。 話しを聞きましたら、彼は日本へ来てもう11年になるんですよね。 それで、彼が日本に来た当時、仲良くなった友人がいたんだそうです。 その友人というのは、土木関係の会社に勤めている作業員で、若い青年だった。 で、事務所になっている所の二階が飯場になっていましてね、そこで暮らしてた。 そんな時に、同じ飯場で暮らしている60過ぎの男性がね、突然亡くなっちゃった。 その男性は、大変な大きないびきをかきながら、いびきをかいたまま亡くなったっていうんですよね。 けれど、その男性には身寄りがない。 だから、会社のほうと作業員が集まって、葬儀を済ませたわけですよね。 その男性の持ち物はっていうと、会社関係の物がほとんどで、個人の持ち物は少し。 それで会社のほうが、それを「みんなで形見分けしましょうよ」って言ったんだそうです。 それでその彼の友人の作業員の青年は、ラジカセを貰ったっていうんです。 これは、その亡くなった男性がよく聞いていたっていう物なそうなんですがね。 そして、そのラジカセをユセフさんの所へ持ってきたわけだ。 「お前何も持ってないだろ?これでラジオでも聞いたらどうだ?」って。 ユセフさんはラジオを持っていなかったんで、喜んだ。 それで、それを早速自分の部屋へ置いたわけだ。 そんな時に、ユセフさんの義理のお兄さんが日本へやってきた。 貿易関係の仕事をしていて、家具を売り込むっていう事で、たまたまやってきたんですね。 それで、「ホテルに泊まるよりも、お前の所に泊まるほうがいいから、泊めてくれよ」とユセフさんの部屋に泊まりにきた。 というのも、この義理のお兄さんは日本語が上手くないんだ。 それで、その日もユセフさんは仕事を終えて家に帰った。 義理のお兄さんは出かけてる。 でも、ひょいっと見ると、テレビがつけっぱなしになっている。 (あ、テレビつけっぱなしだ…)と思ったんですが、 よく考えると、義理のお兄さんは日本語がわからない。 だから(おっかしいな…兄貴は日本語がわからないからテレビ見ないよな…おかしいな…) と思いながら、そのままテレビを消した。 でも、それからも時々おかしい事がある。 例えば、水道の水が出っぱなしになっている。 日本人の人ならまだしらず、イランの人は絶対にそんな事はしない。水を大事にしていますから。 それに急に電化製品がついて、動き出したりする。そんな事普通はないですよね? だから、おかしいな…と思ってた。 そんなある日、義理のお兄さんが「たまに一人で居ると、おかしい」って言うんだそうですよ。 「何がおかしいんだ?」って聞くと、 「夜あんた出かけてる。俺一人で寝てるだろ?そうすると、人のいびきがするんだ。大きないびきなんだ。 それも、すぐそばにいるような気がするんだ。なんか気持ち悪いんだよな… それで、気持ち悪いと思っていると、急に水道の水が出たりするんだ…一体なんなんだい?」 でも、ユセフさんは心あたりがないですからね。はてな?と思っていた。 そうこうしているうちに、義理のお兄さんは国へ帰った。 そして、それと同じ頃に、ユセフさんの友達が、引っ越しをした。 その友達っていうのも、イラン人の方なんですがね。 それで、ユセフさんはそのラジカセを引越し祝いにあげようと思って、友達のところへ持っていったわけだ。 友達の彼は喜んだ。これで色々聞いてみるよって。 しばらくして時間が出来たんで、ユセフさんはラジカセをあげた友人のところへ遊びにいってみた。 そうすると、その友人が「引っ越したばかりなんだけど…この部屋をかわろうと思うんだ。」って言うんだそうです。 話しを聞いてみると、 「引っ越してから水が突然出たり、電気がついたり消えたりしてみたりするんだ。 それでね、一番嫌なのは夜中にいびきが聞こえる事なんだよ… 部屋に自分は一人なのに、誰かが本当にすぐそばに居るようでさ… それに、寝ていると頭のところに誰かが立っているようなんだ。 それは、どうやら中年のおっさんのようなんだけど… この部屋は絶対におかしいぜ?」 って友人は言ったっていうんです。 その時に、ユセフさんはピーンときたって言うんですよ。 それはね、この部屋が悪いんじゃない。このラジカセなんだと。 このラジオの元の持ち主の60代の男性。大きないびきをかきながら、亡くなっている。 だから、きっとこのラジカセが原因なんだと思った。 それでね、このラジカセは返したほうがいいって事で、ラジカセを返しに行った。 そうすると、嘘のように全ての現象がなくなったそうですよ。 それでね、ユセフさんが私に言うんですよ… 「霊って、そういった物にも取り憑くのかな?自分の思い入れのある物に魂が入るのかな? ましてや、音って一番入りそうな気がしますもんね。」 って言っていましたよね。





