ナホトカ
土地の者達は、昔からこの浜に近づこうとしない。 青い浜に白い砂浜、美しい海岸なんですが、確かに人の姿がない。 この海岸では、人がさらわれるという噂がある。 そしてその昔、この浜一面に死体が打ち上げられた事がある。 それは終戦後、ソ連に抑留されていた人達が引き上げ船で帰ってきた。 そして上陸を目前に、船が機雷に接触して爆発した。 そして全員が死んだ。沈んだのはこの船ばかりじゃなかった。 ソ連の潜水艦が魚雷攻撃をして、撃沈したという話もある。 口では言い尽くせないような苦労をして、命がけで生き残って、夢にまで見た祖国を目の前にした喜びも束の間、 海の藻屑と消えたこの人達の無念さというのは、いかばかりだったでしょうか。 中には怪我をしながらも必死に泳いで祖国を目指した方もいたそうですが、 力尽きて海の底に飲み込まれていったそうです。 そして波に運ばれて、たくさんの死体がこの浜に打ち上げられた。 この人達は死体となって日本にたどり着いたんですね.. さて、そんな犠牲者が身に着けていたカバンや、死んでも離さなかった手提げ袋。 そしてリュックサックの中身までも、この土地の一部の悪い人が持ちさってしまった。 この人達は全員不幸に見舞われたそうです。 風の強い日になると沖のほうから、 泣き叫ぶ声や叫び声が風にのって沖のほうから聞こえてくるそうです。 土地の人達は耳をふさいで、決してこの浜には近づかなかったそうですよ。 今でも、砂の中からその当時の犠牲者の身に着けていた品が見つかる事があるそうです。 年月が過ぎてそんなある日の事。 仕事の関係でこの土地に来た、ある電機メーカーの鈴木さんと太田さんという若手社員が、 仕事を終えて、「夏だし、せっかくなんだから、夕日に染まる海岸で一杯やろうじゃないか!」 って事で、冷えた缶ビールにツマミを持ってやって来た。 来てみれば、今しも夕日に染まる海岸と海。美しい海岸。人っ子一人いない。 なんだかこうなると火が欲しくなる。 「おお、焚き火でもしようか?」 「いいねえ!」 って事で、流木を集めて焚き火が始まった。 炎に照らされて、二人は冷えたビールを飲む。 日は段々と傾いて、もう水平線の向こうに消えようとしている。 と、いつから居たのか波打ち際に小さな子供が一人ポツンと立っている。 辺りには誰も姿がない。 もう日も落ちようとしているのに、小さな子供がたった一人。 一体何をしているんだろう?と思ってね。 心配になった鈴木さんが、 「おーい!危ないよ」って言うと、その小さな子供がこっちを振り返った。 それで、太田さんのほうが、波打ち際は危ないからもう少しこっちにおいでって意味で、 おいでおいでをした。 と、呼ばれたと思ったのかその子供がこっちへ歩いてきた。 それがなんだか妙な歩き方。 段々段々近づいてくる。 やがて、焚き火の炎に照らされて子供の姿が見えてきた。なんだか変な感じがした。 汚れた服を着て、ゲッソリと痩せた5~6歳の女の子。 で、鈴木さんが、 「お嬢ちゃん、お譲ちゃん一人?お母さんは?」って言うと、 その女の子が振り返って、沖のほうをジーッと見つめている。 二人が見たんですが、そこには何もない。 と、その女の子が大事そうに何かの布袋を抱えているのが気になった。 袋から長い紐がずーっと垂れて、砂の上をずっと引きずっている。 「あ、それ引きずっているよ?」って言うと、 女の子がその紐を手繰り寄せた。 紐がズルズルっと砂の上をずってくる。 女の子がまた紐を手繰り寄せると、紐がズルズルズルっとずってくる。 見るともなしに、紐の先を見る。 何だか妙な生き物のような物がついている。 (あれ?何がついているんだろうな?) 女の子が紐を手繰り寄せると、一緒に砂の上をずってくる。 それっが段々と近づいてきた。 (え?あれなんだろう?) ズルズルと寄ってくる。 そのうち、焚き火の炎に照らされてその正体がわかった。 その瞬間に二人は思わず声をあげた。 そのまま視線が止まってしまった。 それはなんと、人間の肘までの右手だった。 それが紐の先をグッと掴んでいる。 女の子が紐を手繰り寄せると、 ズルズルズルっとだんだんだんだんと寄ってきた。 二人は、黙ったまま目を見開いてそのありさまを見ていると、 女の子がフッとその右手を拾い上げて、抱えていた布袋にしまいこんだ。 その時に、布袋の口が少し開いて、中から女の生首がジーっと見ていたものですから、 「うああああああああああ!」声をあげた。 二人は慌ててその場から逃げていった。 日の沈みかけた海岸で、小さな女の子が一人、波打ち際に打ち上げてくる バラバラになった母親の遺体を拾い集めていたんですね.. もちろんこの女の子もこの世のものじゃないですけどね..





