東村山市のマンション - 木原浩勝
今回のお話は東村山市にお住まいになっている方のお話です。 その方が今のマンションに住みはじめてすぐのことなんですけど、引っ越ししたての時って近所に知り合いもいないですし、誰かが尋ねてくることってそう無いじゃないですか。 引っ越してしばらくしてからまだ荷物も片付けきっていない時に玄関のチャイムが鳴ったんです。 ピンポーン 訪ねてくる予定の人はいないし、まだ片付けきっていないから友人も呼んでいない。 だからこれは新聞か何かの勧誘じゃないかと思った。 廊下を通って玄関まで行ってドアを開けようと思った時に、勧誘だったら嫌だなとも思ったので覗き窓から覗いてみたんですが誰もいないんです。 (あ、もう帰ったんだ)と思って玄関に背を向けた時に ピンポーン またチャイムが鳴ったんです。 角部屋で片方は通路がないので(あれ、誰も居なかったはずなのにな)と思ったんです。 そう思ってまた覗き窓を覗くんですが、誰も居ないんです。 その家の造りというのは廊下から少し凹んで玄関があるんです。 それでその玄関の近くに娘さんの部屋にしようと思った小さな部屋があるんです。 その部屋というのは通路に面しているのでそこの窓から覗くとちょうど玄関の真横が見えるんです。 (誰か居るのか見てみよう)と思ったんです。 そう思って覗いてみると、玄関に真っ赤な人が立っているんです。 人の形をしているけれど服も着ていない真っ赤なモノ。 (今の何?) 怖くてまともに見ることが出来ないんです。 (どうしようどうしよう・・・) でもあんな人が居るんだったら玄関を開けることは出来ない。 ふと上を見ると玄関の上に明かり取りの採光窓があるんです。 そこを見ると、真っ赤な人がそこに張り付いているんです。 そしたらその人がスッと居なくなって、ようやく居なくなったんだと彼女は奥の部屋に戻ってカタカタと震えながらお茶を飲んで時間が過ぎるのを待ったんです。 どれくらい時間が経ったのか分かりませんが、ガチャガチャと音がして娘さんが入ってきたんです。 時計を見ると時間的にはそこまで経っていなかったので彼女は走って玄関まで行って「誰か居なかった?」と娘さんに聞いたんです。 「誰かって何?」 「誰かって、赤くてツルンとしていて人の形をしたモノよ。 ねぇ合わなかった誰かに廊下で?」 「んーん、お母さんそんな人いなかったわよ、何言ってるの」 それで娘さんに先程のことを話すと「やだやめてよ何言ってるの、まだこんな日が高い夕方なのに」 そう言われて彼女は気のせいだったんだと思うことにしたんです。 それからしばらくしてようやく部屋も片付いて、もうこれならいいかなというタイミングで友達をたくさん呼んで、引越し祝いをすることにしたんです。 友達がたくさん来て、「後は誰が来ればいいのかなぁ?」と聞くと、「あそこの夫婦だけよ」という話になったんです。 ピンポーンとちょうどチャイムが鳴ったので玄関まで行き扉を開けると、その待っていた夫婦のご主人が立っていらっしゃったんです。 「お引っ越しおめでとうございます。 この度はお招ばれに預かりまして」 「いえいえありがとうございます。 どうぞ中にお入りください。 あら、ところで奥さんは?」 「帰りました」 「え、どうして? お車で一緒に来たんでしょ?」 「はい、うちのが運転してきたんです」 「じゃあどうしてご主人だけなんですか?」 「いやそれが言いづらいんですけど、家内が変わったことを言っていて・・・」 「変わったこと?」 「いや、それが詳しいことは言わないんですよ」 「変わったことって何かしら・・・。 あ、でもこんなところではなんだから、中にお上がりください」 でも彼女はそのことが気になっていたので奥さんが家に帰った頃のタイミングを見計らって電話をかけたんです。 「もしもし、どうして来なかったの? ご夫婦で一緒に来てくれるって言ってたじゃない」 「怒らないでほしいの。 うちの主人は黙って入ってきた? 何も言わずに?」 「えぇ何も言わずに入ってきたわ。 ねぇ怒らないでって何の話なの?」 「本当に怒らないでね。 車を運転して主人と一緒に駐車場まで来たの。 それで主人をおろして駐車場に停めてフッと上を見たら、あなたの部屋って五階の角部屋よね」 「えぇそうだけど」 「下から見上げた時に、五階のあなたの玄関のところに真っ赤な人が居て、こんなに伸びて玄関のところに張り付いているように見えたの。 それで旦那を促して、ほらあれって言ったの。 そしたら旦那は普段と何も変わらない様子で、『あぁあそこだよね、五階の角部屋だよね』って言うの。 あそこあそこって主人に何度も言うんだけど、主人は全然気がついていない様子なの。 それで私、これは私にしか見えていないんだって思って、それで怖くなって行けなかったの」 彼女はそれを聞いて、(あ、あれは私だけじゃなかったんだ、夢じゃなかったんだ)と思い、「あのね、実はこういうことがあって・・・」という話をしたんです。 そして私、その話を聴いてから半年後にまたその方とお会いする機会があって、「あなたの話を本に掲載しました」ってお話をしたんです。 そうしたら彼女が「どうして続きを書かなかったんですか?」と私に聞いたんです。 「続き? 続きなんて僕は聴いていませんよ。 続きがあるんですかあの話に?」 そう言って彼女は続きの話を聴かせてくれたんです。 あれから二、三ヶ月した頃かしら。 マンション内にもたくさん友達が出来て、暇な主婦ばかりが集まって持ち回りでお茶会をすることになったの。 ある時にお茶会の準備でサンドイッチを作る時に近くの仲のいい奥さんが訪ねてきてくれて、一緒にサンドイッチを作って後は皆が来るだけだねって話をしていたんです。 お昼の一時過ぎくらいだったかしら。 そうやって待っていたらピンポーンとチャイムが鳴ったんです。 そして私、出迎えのために玄関まで行ったんです。 玄関を開けようかなと思った時にもう一度チャイムが鳴ったんです。 でもその時に(あれ?)って思ったんです。 チャイムは確かに二回鳴ったけれど、いつものように「こんにちは」というような声だったり、何だか皆でお喋りしてるような気配が無いんです。 そして過ぎったんです、引っ越してきた時の記憶が。 友達も奥に居るし大丈夫かなと思ったんですが、やっぱり怖くなって娘の部屋に入って窓を覗いたんです。 そこには真っ赤な子供が居たんです。 (え、子供なの?)と思っていると、その子供の体がグンと伸びてベタッと採光窓に張り付いて中を覗いているんです。 そうしていたら『わー!』という声がして、なかなか玄関から戻ってこない私を見に奥の部屋から友達が来ていたんです。 上を見て、真っ赤なものを見てへたり込んでいるんです。 「ちょっとあれ何なの! 張り付いているあれ何なの!?」 そうするとその影はスッとまた居なくなって、そのスキに奥の部屋まで友人を連れて戻って二人でガタガタと震えていたんです。 そうしたらピンポーンとチャイムが鳴ったんです。 「こんにちはー! お昼出来た?」 と三人くらいの主婦の声がするので玄関まで行って中に入ってもらったんです。 「ねぇ、外に赤い子供居なかった?」 「え、何の話?」 見てしまった奥さんは奥の部屋でボロボロと泣いていて、しきりに怖い怖いと言っている。 今来たばかりの奥さんたちはどうしたの?と声をかける。 そんなことを話してしまったらもう遊びに来てくれないと思ったので 「気のせいよ気のせい、私はなんにも見なかったんだから」 と言ったんです。 「本当にあなた何も見なかったの? 見たのは私だけなの?」 「えぇ私は見ていない、あなたの勘違いよ」 それで彼女も落ち着いてくれて、勘違いだってことはその日は過ごしたんです。 それから赤い人は訪ねてきていないそうです。






