公団のはしゃぎ声
去年の五月でしたよ。 私友人と二人でもってね、都心の公団に住んでいる先輩の所を訪ねたんですよ。 この先輩っていうのは、古い建物なんですが公団の最上階、9階に住んでるんですよ。 訪ねた時間というのは、夜中の0時半ですよ。一般から考えたら非常識な時間ですよね。 ただ業界の人間というのはそういう時間じゃないと会えないもんで、その時間に行ったわけだ。 先輩は一人暮らしなんで、あんまり気兼ねもいらないんでね。 さすがに東京といえど、夜中ですからシーンとしてるんですよね。 それで行って、エレベーターのボタンを押したんですよね。 それで、9階に灯りがついたんですよね。 (ああ、灯りがついたなあ..)と思っていたら、ゆっくりエレベーターが降りてきましたよ。 なんとなく二人でそれを眺めてたんですよね。 そのうちにね、子供のはしゃぐような声がするんですよ。 (ハテナ?)って思った。どうやら子供がはしゃいでるようなんだな。 エレベーターはどこにも寄らずに段々と降りてくるんですよ。 子供のはしゃぐ声がどんどんどんどん大きくなるんですよ。 (ああそうか。子供がエレベーターの中ではしゃいでるんだなぁ)って思った。 確かに夜中の事ですよ?でも東京の事だからあり得る事ですしね。 エレベーターはどんどんどんどん降りてくる。 2階まで降りてきてる。結構な声で騒いでるんだ。 エレベーターの中で駆けずり回ってるんでしょうね。あの狭い中。 で、これは一階で扉が開いた瞬間飛び出るだろうと思ったから、 わたしも友人も横に避けたんですよね。 待ってた。 ─チーン─ 1階についてエレベータの扉が開いた。 でも誰も出てこないんですよね。 (あら?)と思ったんですけど、友人とそこに乗ったんですよ。 小さなエレベーターなんですが、中は空なんですよ。誰もいないんですよ。 二人で(おかしいね?)って顔を見合わせたんですが、 エレベーターに乗って上に昇った瞬間に、こっちは忘れちゃうのねそんな事。 それで、それを去年ツアーの一部会場によってバラバラなんですが、話した覚えがあるんですよ。 ところが去年の10月、ちょうどツアーの終わった頃ですよ。 その例の先輩から電話があったんですよ。夜中に。 「あ!どうも!」って電話に出たら、 『おお!おい、夏におかしな事があったんだぜ。』って言うんですよ。 「え?何があったんです?」って聞いてみたならば、 『いや、俺の部屋は9階なんだけど、 夜中に部屋の前の通路を子供が駆けずり回ってはしゃいで騒いでるんだよ! 9階には子供は居ないし、時間も時間だろ? わざわざどっかから上がってきて遊んでるとも思えないし、なんだか気になってさ。 俺、玄関のドア開けて覗いてみたんだよ。そしたら誰もいないんだよ。 エレベーターは動いていないし、階段を駆け下りるような音もしてないし。 おかしいんだよなあ..』って言ったんで、例の5月の事を思い出したんだ。 それで、それを言おうとして、 「あ!先輩それね..」って言いかけたら、 『おい、来てるよ。来てるよ...来てる来てる!』って先輩の声が聞こえたんだ。 受話器を耳につけて聞いてたら、確かにはしゃいでいるような声がしてるんですよ。 騒ぎまくってるような。声してるなあ..やってるなあ..って思ったの。 それで、わたしが「もしもし?もしもし?」って言うんだけど、返事がないんだ。 「もしもし?もしもし?」って言うんだけど、やっぱり返事がない。 子供がはしゃいでいるような声が聞こえてるんだ。 こんな時間に騒いでるなあって思った。 と、次に先輩が、 『おい!入ってきちゃったよ!』って言ったんですよ。 (え!?)って思った。 でも確かに子供の声が大きいんですよ。 受話器の向こう側で、だんだん声が大きくなってるんだ。 (うあ..来てる来てる..)って思った。 それで、こちらも声を潜めて、 「もしもし?もしもし?もしもし?」声をかけるんだけど、先輩の返事がない。 子供がはしゃいでるんだ。はしゃぎながら、ワイワイ入ってきて、 本当に受話器のすぐ向こう側位で声がした。 そして、子供の声で 『ねえ、この人寝てるの?』 と、もう一人の子供の声で、 『ううん。死んでんだよ』って言ったんですよ。 (ええええ..)と思ってたら、しばらくしたら電話は切れちゃった。 なんだか妙に気持ちが悪いもんだから、間を置いて電話したんですよ。 電話のコールは鳴るんですよ?でも先輩は電話に出ないんだ。 その間に私は友人に電話して、今わたし先輩と電話してて、こんな事があったんだよって話しをした。 それで私は携帯を持っていないもんだから、あんたから先輩の携帯に電話いれてみてくれないかな? ってお願いした。それで、もし何かがあったならば、一緒に行くから付き合ってくれない?ってお願いした。 「ああ、いいよ!」っていう事で、友人に先輩の携帯に電話してもらったんですね。 待ってましたよ。15~16分。 電話が鳴った。出てみると友人からで、 「おい、先輩東京に居ないぞ!仕事でずっと山形だってさ..」って言うんです。 「おい、ちょっと待てよ!じゃあ今の電話は誰からなんだよ?どこからなんだよ?」 妙な気分になりましたよね。 でね、それから後なんですよ。 それから、先輩帰って来てないんですよ。東京へ。その公団へ。 行方がわからない。どこへ行ったのか。 連絡もとれない。ずっとそのまんま。 まあ、どなたかが公団の払いはしてるんでしょうけど、何がどうなったのかわからない。 不思議なもんですよね。気になれば気になるんだ。 気にしなければ、気にならない事なんですよ? でも妙に気になるんですよ。 不思議な事って結構あるもんですよね..。 ただ私ふっと思ったんですけどね、真夜中のはしゃぎ声? これもしかすると、都会の産んだ幻聴なんじゃないかな? そして、この話しまだ続くんじゃないかな?そんな気がします。





