水を頂戴

673 :本当にあった怖い名無し:2012/09/04(火) 17:04:56.77 ID:ZmLpzkug0
Lv2で、長文書き込めないからぶつ切り投稿になるがすまん
では本文行きます

まだ自分がうまれる、ずっとずっと前の話
祖父が入院していたときの話だそうだ
祖母と伯母と母が交代で、昼も夜も付きっ切りの看病だったらしい

今では考えられないが、その病院の隣は大きな墓地になっていて
焼き場もそこにあったという

水を汲んだり汚れ物を洗ったりと、行く回数の多い水場の窓からは
そんな墓場が丸見えで、ひどく気味が悪かったと母からよく聞かされた
特に夜は最悪で
電灯を消された暗く長い廊下を歩いていると
ひたひたと後ろから誰かが付いてきているような
ありがちだが、そんな気がいつもしたそうだ

病院から家へ帰るには
実はその墓場の中を抜けて行く方が近道だったらしいのだが
当然怖いので、母たちはいつも遠回りの道を使っていた
そんなある日
病院から帰ってきた伯母が、家の玄関に入ってくるなり土間で倒れた
「姉ちゃん、どないしたん?!」
土間にうずくまり、なにやら低くうめいている伯母に母は声を掛けた

「……………」
伯母はどうやら早口で、何かを繰り返しつぶやいている
その時は、何を言っているのかわからなかったらしい
伯母の様子のおかしさに、どこか具合が悪いのかと
傍に駆け寄って抱き起こそうとしたとき
「あ、あ、あ、あついー、あついー、あついーっ!!!」
首をかきむしりながら、突然、伯母が顔を上げて叫んだそうだ

「みず…水を頂戴!早くっ!みずっ!みずっ!」
焦点が合っているのかどうかすら分からない眼差しを母に向けながら
伯母は狂ったように繰り返した
「みずっ!みずをっ!」
「水やねっ!待ってて!」
母は急いで湯飲みに水を汲むと、伯母の元へと持っていった
それを一気に飲み干すと、再び、もっと水をと母に言う
何度それを繰り返しただろうか

いくら飲んでも、もっと水をもっと水をと言う伯母に
きりが無いと思った母は、家で一番大きな薬缶にたっぷりの水を汲み
それを伯母に差し出したらしい
伯母はそれを受け取ると、首を煽って飲みだした

重い薬缶を眼前に抱え
口の脇から飲み込みきれなかった水が零れるのもかまわず
必死としか言いようの無い様子で
伯母は水を飲み続けたそうだ
傍でその様子を見ながら、あの時は心底恐ろしかったと、母は言っていた

やがて、全部の水を飲み干した伯母は
ふうぅぅぅぅ、と長い息を吐き出した
「…やっと、落ち着いた…」
そう言った伯母は、もういつもの伯母に戻っていたそうだ
だが、あれだけの水を一度に飲んだにもかかわらず
普段から痩せすぎなくらいの伯母の身体のどこにその水は入ったのか
伯母の身体のどこにも変化は見られなかったらしい

何よりも、普通の人間があんなに大量の水を一度に飲めるとは
目の前で見ていながら、信じられない気持ちで一杯だったという
「…大丈夫?どないしたん?一体なんやったん?」
恐る恐る訊く母に、伯母は困ったような顔を向けた
「…今日は疲れてたから、近道して帰ろうと思ったんや…」

伯母が言うには、祖父の看病を祖母と交代した帰り道
まだ明るかったので、墓地の中の道を通って帰ろうとしたらしかった
だが他に人の姿も無く、やはり気味が悪いので急いで帰ろうとしていたところ
いきなり囲まれたと言う

「お墓の影から、真っ黒な仏さんがぎょうさん(いっぱい)出て来はってなあ
しがみついてきて、逃げられへんかった
何とか家まで帰ってこれたけど、そっから(そこから)ようわからへん…」
さらに淡々と伯母は語ったそうだ

「なんかなあ、のどが渇いて仕方なかったんや
渇いて渇いて、身体が熱うて、どうしようもなく苦しかったんや
でもみんな、もうどっか行きはったわ
水飲んで満足しはったんかなあ…」
零した水でびしょびしょになりながら、伯母はまた大きく息を吐いた

「真っ黒な仏さん」というのがどういう人たちだったのかは
伯母の口から訊かなくても、なんとなく分かったと母は言った
この辺りは昔、戦争で激しい空襲にあい
見渡す限りの焼け野原だったそうだ
そして身元の分からない仏様は、みんな無縁仏として葬られた
病院横のこの墓地にも、そんな無縁仏のお墓がたくさんあったそうだ

実は祖母だけは以前から、このお墓の道を度々使っていたそうなのだが
このことがあって以来
伯母たちにきつく言われて、別の道から祖父の病院に通うようになったらしい
「遠回りになるのに…」
と溢していたと言うから、平気な人は平気なのだろう

そして、病院内でも色々見たと、伯母に散々聞かされてきたせいだろうか
母は今も、病院が大の苦手だ

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