隣の家庭

922 :本当にあった怖い名無し:2009/12/26(土) 06:42:52 ID:qRx1Ksas0
前に住んでた家の隣の家庭、それほど親しくは無かったけど…
なかなか上品そうな奥さんに、三人の子供、しっかりした父親、飼い犬二匹とごく普通の家庭。
夕方にはピアノの練習の音とか聞こえてきたり、まあそんな家庭。

一番下の女の子(私の一つ下)が中学に上がってまもなく、旦那さんが脳卒中かなんかで倒れて、あっさり亡くなった。
それから少しずつ家が荒れだして、兄貴がグレて家出てったり奥さんもちょっと傍目には分かりにくい程度に壊れていった感じ。
散歩に出さない犬の糞は庭に放置で常にハエが集ってたし、ゴミを間違えて出してたのをウチの親父が気付いてそれとなく指摘すると
メチャクチャ切れて「ちょっと間違っただけじゃないですか!」と怒鳴り散らされたり。

で、この飼ってた犬二匹、親子で血統書付だったんだけど、後で知ったところによるとこの親子2匹を交配させて
それで出来た子犬を売ったり、そんな事もしてたらしいの。自分は知らなかったんだけどオカンなんかは
「上品そうにしてるけどえげつない事するワ~」とかいってちょっと倦厭してた。

時は流れ人も犬も老いて、親の方の犬は老衰で亡くなった。子の方の雌犬も白内障で目は曇って足もヨレヨレ
殆ど見えもせず、歩けないような状態に。私もとっくに家を出てたけど、たまに帰省するとよく「ハナ!」って呼びかけてナデナデしたり可愛がってた。
流石に目悪くしてからは、呼びかけても小屋から少し出て両耳寝せて微かに尻尾振る程度の挨拶しかしてこなかったけど。

ある日休暇で帰省してた私は、近くにある小高い山を散歩して時間を無為に過ごしてたの。ブラブラブラブラ。
散歩するには少しキツイ場所だけど、子供の頃の思い出とか色々探してブラブラブラブラ…
ここ松明行列で通った道やなー変わったなー、○○饅頭まだ売ってるんかーとか考えながら。
そしたら向こうから見たような人が降りてくるんで、目を凝らしたら隣の奥さんなわけ。
「あっ、こんにちはー。お散歩ですかあ?(まさかねw)」って声かけたら、一瞬ギョッとしたような感じで会釈返してきて、それからキョドキョドと回り見渡して
「ハナぁ、ハナぁ」とか呼びながら、「散歩してたら勝手にどっか行っちゃったのよね、ホントに困った子…」とかブツブツ言いながらそそくさと向こうに行ってしまった。
目なんか落ち付かない感じで。で、それ見て何となく分かってしまった。
ハナは目も殆ど見えないし立って歩く事もままならない。それなのに散歩に出たりその上自分からどっか行っちゃう訳無い…
このおばちゃんたった今、ハナをこの山のどこかに捨てて来たんだって。
子供でも分かるような嘘言って、挙動不審に探し回る演技までして「不味いトコ見られた」ってなあからさまな表情に、何だか色んなものが胸の中でグルグルして
ずーんとした気持ちで家路についた。

ハナ、生まれてきて成犬になったら親と交配させられて、子犬可愛がる間もなく取り上げられ、を繰り返して、いつの日からか散歩にも出してもらえず
ずーっと鎖に繋がれたまま周りの糞尿の処理もしてもらえず、体も動かないのに捨てられて。野犬とかも居るだろうにどうなっただろう。

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