新調した冷蔵庫

349 :1/2:2009/05/10(日) 22:00:11 ID:751btpfp0

ツレが、新調した冷蔵庫を早々に手放してしまった。
くそ暑い真夏日に呼び出されて、友人連中とアパートの三階まで運び込んでやったから、よく覚えている。
近所の家電リサイクル店で買った中古品。
新調と言うには語弊があるかもしれないが、型もそこそこに新しい奴で、汚れも傷も殆ど無い、掘り出し物。
一人暮らしの部屋には少々大きすぎのきらいもある、300リットルサイズのヤツだった。

だが、ツレはそれを二ヶ月も経たないうちに手放してしまった。
今は冷凍どころか、充分な冷蔵機能もあるか心もとない、小さな保冷庫を使っている。
最初、ツレは「一人暮らしには大きすぎたからなあ」等と笑っていたが、それにしては妙な話だ。

気になった俺は、何度もツレを問い詰めた。すると、最後には根負けしたのか、ツレは不承不承といった
感じで、こんな事を話し始めた。

あの冷蔵庫を買ってから、妙な事が起こり始めた。
夜、部屋に帰ると、必ずと言って良いほど、冷蔵庫の扉が開きっ放しになっていると言うのだ。
閉め忘れたとか言うものではなく、しっかり閉めて出かけた時も、まったく使わなかった時でも
帰って来ると、扉がフルオープンになっていると言う。

マグネット部分の不良かとも思い、試しに何度か開け閉めしてみたが、そんな感じではなかったそうだ。
しかし何度確認しても、部屋に戻ってくる頃にはその冷蔵庫の扉は、ぽっかりと開ききっているのだと言う。

そしてある夜、ツレはついに見てしまったと言う。

「夜中に何となく眼が覚めてな・・・で、何となく、キッチンの方を見たんだよ。そうしたらな・・・」
開いた扉の背が、こちらを向いていた為、中までは見えなかったらしい。しかし、
「こう・・・腕が、伸びてきてな?」
腕? どこから? 問いかける俺に、ツレは「中から」と、一言だけ答えた。
「細くて、ガリガリでよ・・・それが、何かを探すみたいに、こう・・・」
ツレの手が、何も無い中空を掻き分ける様に、ゆっくりと蠢く。その動きは何となくではあるが、
『おいでおいで』をしているようにも見えた。
「・・・で、扉開けっ放しにしたまま、中にゆっくりと戻って行ってよ。
 俺、もうワケわかんなくて、頭から布団かぶって、朝までガクガクしてたわ・・・」
翌朝、確認するまでも無く、やはり冷蔵庫は開いたままになっていたらしい。

ツレは直ぐに、冷蔵庫を買ったリサイクル店に連絡を入れて、返品を申し出た。
すると、これも妙な話だが、その日のうちに店の人間がやってきて、理由も聞かずに
そそくさと引き取っていったそうだ。

「・・・あの、冷蔵庫まさか『何か』詰め込まれてたんじゃないよなあ?」
何かって、何だよ? と、問うてみたが、ツレは何も答えなかった。

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